前回は、貸借対照表の全体と負債が表すことについて見て来ました。
「負債」と一口に言いますが、その触りだけを理解しただけでも、
随分さまざまな情報が得られることに気づかれたかと思います。
今回は負債と同じ資金調達ではありますが、
自己資本である「純資産が表すもの」について見ています。
純資産とは少し前までは「資本」と呼ばれていたもので、
負債と同じく右に表示され、やはり「資金調達の出所」を表しています。
近年その性質を明確に表現するために、純然たる資産という「純資産」と呼ぶことになり、
「自己資本」を示しています。
今回はその「純資産」について、もう少し細かく見てみましょう。
純資産の科目を見ると、金額はゼロですが、やたら難しそうな勘定科目名が並んでいます。
しかしこれも前回、会計書籍の話で申し上げたように、
会計は大企業を前提に作られているからであって、
ほとんどの中小企業には関係はありません。
通常、中小企業に関係がある純資産科目は「資本金」と「繰越利益剰余金」の二つです。
中小企業に関係する純資産科目は「資本金」と「繰越利益剰余金」だけです!
では、それぞれについて見ていきましょう。
資本金とは一般に「事業を起こすにあたって株主が会社に出資した資金」と説明されます。
しかし中小企業の場合は、一般株主から出資を受けることはほとんどありません。
よって「社長が事業を起こすにあたって会社に出資した資金」と理解したほうが
しっくり来ます。
また、純資産に関する分析として、
ROE(自己資本利益率)やROA(総資本利益率)またPBR(株価資産倍率)など、
難しいそうな分析用語がたくさんありますが、
それは一般株主から資金提供を受けている大企業にとって必要な分析であって、
ほとんど中小企業には必要な経営分析ではありません。
強いて言えば、「自己資本比率」ぐらいは中小企業の経営尺度として活用できますが、
これとて現預金有高と合わせて読み取ることが重要です。
「自己資本比率」は現預金有高と合わせて読み取ることが大事です!
なお、昔は法人を設立する場合は、株式会社なら資本金1,000万円以上、
有限会社なら資本金300万円以上が必要でした。
しかし現在は、2006年に法改正され「最低資本金制度」は廃止されました。
したがって、法人設立は「資本金1円」からできるようになっています。
では、資本金別の企業件数はどのようになっているのでしょうか?
平成28年(2016年)度の「経済センサス活動調査」によれば、下記のとおりです。
《資本金額階級別企業数(全国)》 企業総数:162万9,286社
資本金階級 企業数 全体に占める割合 累積割合
300万円未満 10万6659社 約6.5% 6.5%
300万円以上 500万円未満 56万5289社 約34.7% 41.2%
500万円以上1000万円未満 21万4971社 約13.2% 54.4%
1000万円以上3000万円未満 54万6245社 約33.5% 87.9%
3000万円以上5000万円未満 68136社 約4.2% 92.1%
5000万円以上 1億円未満 46569社 約2.9% 95.0%
1億円以上 3億円未満 15371社 約0.9% 95.9%
3億円以上 10億円未満 7340社 約0.5% 96.4%
10億円以上 50億円未満 3602社 約0.2% 96.6%
50億円以上 2182社 約0.1% 97.7%
資本金1,000万円未満の中小企業が全体の54.4%を占めます。
また1億円以上の法人企業は、僅か5%程度しかありません。
そこには最低資本金制度が撤廃された影響と、
資本金1,000万のハードルと資本金1億の大きなハードルが存在するのです。
法人税には、資本金によって大きな「壁」があるといわれています。
資本金がその壁を超えるか、超えないかによって、
毎年支払う「法人税等」に多額の差が出てくることになります。
それが「資本金1,000万円の壁」と「資本金1億円の壁」といわれるものです。
(1)資本金1,000万円の「壁」
2006年の新会社法施行で株式会社の最低資本金はなくなり、
資本金の額に関わらず会社が設立できるようになりました。
それ以前に設立された会社は、
株式会社にするのなら資本金を1,000万円にする必要があったわけです。
しかし実は「資本金1,000万円」という壁によって、
支払うべき税金が少なくなる場合が2つあります。
1. 会社設立時に資本金が1,000万円未満の場合の消費税
開設後2事業年度分の消費税が免除されます。
つまり、大いに節税できることになります。
2. 資本金が1,000万円以下の場合の均等割
法人住民税の「均等割」税金が、資本金1,000万円を境に変わります。
*「均等割」とは、所得に関わらず徴収される税金です。
その額は会社の資本金・従業者人数によって決まっています。
例えば、東京23区の場合であれば、
従業者数が50人以下の会社で資本金が1,000万円以下であれば、
均等割は7万円です。
対して、資本金1,000万円を超えると、とたんに2倍以上の18万円となります。
均等割は毎年支払う税金なので11万円の差は積み重なると大きいものになります。
(2)資本金1億円の「壁」
これがさらに1億円となるとより大きな「壁」となり、超えるか超えないかによって、
さまざまな違いが生じます。
資本金1億円以下の中小企業でいることの「メリット」は次のとおりです。
1. 法人税を計算する際に「軽減税率」を適用することができる
資本金1億円超の場合、法人税率は25.5%です。
対して1億円以下の場合は、年800万円以下の所得に対して19%の「軽減税率」が
適用されます。
2. 交際費は800万円まで全額を損金算入できる
通常、交際費は損金不算入です。
*「損金不算入」とは、会計上は費用として計算しますが、
税務上では費用に認められない費用のことをいいます。
資本金が1億円以下であれば、800万円までの交際費を損金として計上でき、
800万円を超えた部分のみが損金不算入となります。
しかし資本金が1億円を超えると、
接待飲食費に限っては、その金額の50%は損金算入が可能ですが、
その他の交際費は全て損金不算入となります。
3. 欠損金の繰り戻し還付が受けられる
今期赤字であれば、前期の税金を返してもらえる「欠損金の繰り戻し還付制度」が
あります。
従来はどの会社でも使えましたが、現在は資本金1億円以下の会社のみが使えます。
4. 法人住民税の均等割税金が安くなる
資本金1,000万円を境に、法人住民税の均等割税金が上がったのと同様に、
1億円を超えるとさらに高くなります。
東京23区で50人以下の企業は、1,000万円から1億円以下では18万円ですが、
1億円を超えると29万円になります。
こういう制度もあって
資本金1,000万円以下あるいは資本金1億円以下の法人企業が少ないわけですが、
逆な見方をすれば、企業の社会的名声(ステータス)とも言えます。
資本金1千万円超、資本金1億円超は法人企業としてのステータスです!
「繰越利益剰余金」とは、いわゆる内部留保された利益の蓄積です。
損益計算書の「当期純利益」がB/Sへ回り、繰越利益剰余金に蓄積されていきます。
そのことを「内部留保」というわけです。
したがって、ここが大事なところなのですが、
「内部留保するためには税金は納めないとできない!」ということです。
内部留保ができないと、自己資本は増えず、徐々に資産は増えていくことになりますから、
負債が増えるという構図になります。
つまり、負債を頼りに経営をしているということです。
納税をしないと内部留保はできません!
巷には「節税対策」という文言が溢れていますが、
節税して内部留保を増やすということは出来ません。
節税するということは「所得を減らす」ということですから、
年度末に無駄遣いをしましょうということに他なりません。
「税は王道」です!斜めに読んだ税解釈は、必ずあとで指摘を受けることが多くなります。
納税義務を果たした堂々とした経営が事業を大きくします!
また、社会から必要とされる事業であれば、必ず純資産が資本金より大きくなります。
なぜなら、資本金に社会からの評価の証である「繰越利益剰余金」が加わりますので、
純資産は資本金より必ず大きくなるわけです。
もし自社の純資産が資本金より小さくなっているのであれば、それは赤字経営ということ
ですので、その事業モデルには何らかの問題があることになります。
したかって、事業の在り方を再検討しなければなりません。
純資産が増えない経営はどこかに問題がある!
純資産の読み方は素直に考えれば、単純です。
そのポイントは次の3つです。
ポイント1 純資産は資本金より大きくなっているか?
ポイント2 自己資本比率は50%超を目指す。
ポイント3 純資産と現預金のバランスはどうか?
この3つを押さえて経営すれば、安定した経営ができます!
以上、今回は「財務諸表の表すもの」とし、純資産が表すものを説明しました。
純資産は意外と顧みられることが少ない項目です。
しかし、純資産の状況はこれまでの経営の結果であり、
これをコントロール(操縦)して経営をすれば安定した経営ができます。
次回は、B/Sの資金運用である資産を少し詳しく見て、経営に資する内容を説明します。
掲載日:2021年10月20日 |カテゴリー:会計識字率, 経営技術
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