会計によるリスク管理⑩ 損益

リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ第10回 損益

 

 ワクチン接種も進み出し、緊急事態宣言も沖縄県を除き6月20日をもって解除され、

東京オリンピック・パラリンピックの有人観客開催に向けて最終局面となってきましたが、

オリ・パラアフター後の対策は大丈夫なのでしょうか。

人流による影響やウイルス変容による影響をハッキリと予測しないので、対策は後手後手に

回り、このことを「リスク」と言わなけれれば、一体何を「リスク」と言うのでしょうか。

いずれにせよ生活や経営に対しての影響は不透明です。

各個人、企業が、対策として「守りの経営」へ舵取りすることが大変重要になっています。

 「リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ」の今回は、『損益のリスク管理』を

取り上げます。

 

1 損益とは

 損益とは「事業の営業活動結果の報告」です。

『損益計算書』として

売上高-原価=総利益-販管費=営業利益±営業外損益=経常利益 という書式で

報告されます。

 しかし、この書式では、本質的な営業活動を捉えることが難しいので、

売上高ー直接原価=限界利益-人件費=達成利益ー固定費=営業利 益±営業外損益

=経常利益 など、『管理会計』と呼ばれる、自社固有のフォーマットで自社の営業活動を

捉えなおすことが重要です。

 

 ところで「営業活動の目的」とは、何なのでしょうか・・?

理念的なことを別にすれば、以前は「利潤の追求である」と言われていました。

しかし時代や社会背景も変わり、いまは利潤の追求だけでは、社会の要請に応えているとは

言えなくなりました。

現代の営業活動目的は利潤の追求に、「一人ひとりの豊かな生活追求」が加わっています。

 戦後はもうとっくに過去のことであり、いまはネクストステージに入っているのです。

経営者はいつまでも「儲け」だけを考えていればいいのではなく、社員一人ひとりの

「豊かな生活」にも目を向け、経営の舵を取らなくてはなりません。

そこのところを踏まえて「損益のリスク管理」を考えてみましょう。

 

現代の企業目的は「利潤の追求」と「豊かな生活の追求」です!

 

 

2 「損益」のリスク管理

 そうすると、損益のリスク管理とは、利益の追求と豊かな生活の追求を阻害するものを

事前に察知し、避けることと考えられます。

 では、利益の追求と豊かな生活の追求を阻害するものとは、何でしょうか?

 

(1)売上高

 売上高が減ると、当然のことながら利益は少なくなります。

利益が減ると、人件費に十分な資金を回せなくなります。

つまり、売上高は年々「増収」させることが基本マネジメントであることがわかります。

そのリスク管理は「前年同月比」と「前年累計比」を見て行います。

  売上高前年同月比 =  当期当月売上高  ÷  前期同月売上高  ×100

  売上高前年同期比 = 当期当月累計売上高 ÷ 前期同月累計売上高 ×100

これはよくご存知の算式です。

特段、増収減収に一喜一憂する必要はありませんが、しかし増収減益を流れの中で把握し、

現在の状況を判断することが重要です。

なぜなら「手当は早めに打てば、やさしくなる」からです。

ずっと売上減が続いて、その後、何か有効な手立てを打とうとしても、それは非常に難しい

ことになるうえに、早急な改善も迫られます。

そのようなことをならないように、早期の手当てとそのためにも経営計画の立案が重要で

あることを理解しましょう。

 

(2)限界利益

 テーマが少しズレますが、せっかくの機会ですので、あらためて「売上総利益と限界利益の違い」も復習しましょう。

 

 『売上総利益』とは、売上高から『全部原価』を引いたものです。

全部原価とは、材料などの『直接原価』と労務費や外注加工費、製造経費などの

『間接原価』の合計です。

したがって、売上から差引したものを「売上総利益」と呼ばれるわけです。

 一方、『限界利益』とは、売上高から材料や商品仕入の『直接原価』だけを引いたもの

です。 つまり、「正味の付加価値」を示すことになります。

 

たとえば、同じ商品を同じ金額500円で仕入して、

A社は街中で普通の店舗で販売していて1000円売っているとします。

B社は高級そうなホテルの中の専門店で販売していて2000円で売っているとします。

そうすると、

 A社の付加価値は 500円、限界利益率50%

 B社の付加価値は1500円、限界利益率75% となります。

限界利益は、ゼロになると直接原価相当分となってしまい、それ以上減ると本当の赤字

「真正出血」になりますので、『限界利益』と呼ぶわけです。

 ※売上総利益はマイナスになっても原価に間接原価が含まれていますので、

  本当の赤字「真正出血」にはなりません。そのことを「疑似出血」と言います。

 

 限界利益が減ってくると、直接原価以外の人件費やモノへ回せるおカネが少なくなり、

結果は利益も少なくなります。

したがって、限界利益の動向を管理することは「損益のリスク管理」となります。

 

(3)人件費

 限界利益から最初に回すのは、『人件費』です。

人件費には、給与・賞与・役員報酬のほかに、社会保険料などの法定福利費も含みます。

これがいま非常に大事なマネジメント課題になっています。

 如何に社員の生活を豊かにできるのか・・。

残業時間などのこともありますが、それを減らしても毎年昇給させる!それがいま求められ

ています。

 

 先進7か国の中では下記が示すとおり、日本は最下位になっています。

1980年代の「Japan as No.1」 と言われていたあの頃と、隔世の感があります。

世界の最低賃金_2019 (1)

出典: OECD 「Real minimum wages」「Average annual wages」

 

実際には、役員報酬を除いた従業員一人当たり人件費や労働分配率でマネジメントします。

 従業員一人当たり人件費=(従業員給与+従業員賞与+従業員法定福利費)/経過月数

             ÷従業員数

 従業員労働分配率   =(従業員給与+従業員賞与+従業員法定福利費)÷限界利益

             ×100

 

 これが少ないと、いくら立派な経営理念などを並べても、従業員はついて来ません。

おカネだけが重要とは言いませんが、しかし生活にはおカネが必要です。

よく従業員に対する不平を口にする経営者もいますが、その前に従業員に払えるだけ払って

いるのか、振り返りましょう。

また、仮に十分払えていなくとも、正直な現在の状況や将来的な展望などを、従業員が納得

できる形、鼓舞できる形で説明をすることも大事なことです。

 

 この人件費が減ったり、未払いになってくると、やはり士気に影響し、生産性が下がり、

結果、利益も少なくなります。

したがって、人件費の動向を管理することも重要な「損益のリスク管理」です。

 

 限界利益から、この人件費を支払った残りが『達成利益』になります。

 

(4)営業利益

 営業利益は、達成利益をいう水を、固定費というフィルターを通して、真水にした

「本業ベースの利益」です。

 

 これは当然のことながら、黒字になるように、固定費というフィルターを調整しなければ

なりません。

固定費を少なくできれば、フィルターの目は粗くなりますので、多くの利益が残ります。

固定費が多くなってしまうと、フィルターの目は細かくなりますので、少しの利益しか

残りません。

 大事なことは、この固定費というフィルターは、どんなに目を粗くしても、利害関係者は

いないということと、少なくすることも多くなってしまうことも社員全員の力で出来るとい

うことです。

ですから、削れるのもがあるのなら、削ることが大切です。

 

 たとえばあのJALが一時、固定費削減のために、社内コピーは裏紙を使っていたとか、

あの東芝では、事務室の蛍光灯ひとつひとつに、ひものスイッチをつけて、その下に人が

いないときは、一つ一つ蛍光灯を消せるようにしていたとか、

一見華やかに見える大企業でも固定削減には凄い努力をしています。

 

 この固定費が増えれば営業利益は少なくなりますし、減らせれば営業利益は増やせます。

したがって、営業利益を管理することも「損益のリスク管理」です。

 

 経常利益の増減は、営業外損益だけに因りますので、割愛しますが、

「損益のリスク管理」のインジケーターとしては、売上高・限界利益・人件費・営業利益

などがあり、その調整弁として、直接原価・人件費・固定費などがあることがわかります。

 

 

つづく・・

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戦略を考えるにあたって重要なことは、『思い込み』なるものを打ち破ることです。

私たちは思いの外、『思い込み』に囚われて生活や仕事をしています。

そしてその結果が「いまである」ということを忘れてはいけないと思います。

違う結果を得たいのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。

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掲載日:2021年6月30日 |カテゴリー:会計識字率

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