「運転資金が回らない」「運転資金が必要だ」など、よく『運転資金』という言葉が
使われます。
このことは殊更、事業において「運転資金が重要である」ということを表しています。
しかしあらためて「運転資金とは何ですか?」といわれると答えに窮したり、「貴社の
運転資金はどのくらい必要ですか?」と聞かれて答えられないということがままあります。
では、そんな『運転資金』は会計帳簿のどこを見ればわかるのでしょうか?
今回はそんな『運転資金』の読み方や判断の仕方をやさしく解説します。
まず、『運転資金』うんぬんのまえに、会計資料の基本を覚えて置きましょう。
このことは会計資料を読むに際に、大変役に立ちますので、よく理解しておきましょう。
(1)会計資料の左と右とは
会計資料は、左側(借方)に「資金の運用と資金の使途」を示すようになっています。
その逆、右側(貸方)には「資金の調達と資金の源泉」を示すようになっています。
(2)資金の運用・使途、資金の調達・源泉とは
「資金の運用」とは『資産』のことです。
そして「資金の使途」とは『費用』のことです。
また、「資金の調達」とは『負債・純資産』のことです。
「資金の源泉」とは『売上・その他収益』のことです。
この4つのことを覚えておけば、仕訳も簡単にできるようになり、また会計を読めるように
なります。
『運転資金』とは「毎日の売買活動をするために運用している資金(必要なおカネ)」の
ことをいいます。
また、長い期間で運用する資金(必要なおカネ)のことは「設備資金または設備投資資金」などといいます。
よく勘違いされるのは、「運転資金=必要なおカネ」というイメージから、負債のことと
思われることです。
しかし、冒頭で説明したとおり、負債は調達している資金であり、運転資金として運用して
いる資金ではありません。
『負債』とは他人資本であり、かんたんに言えば「借金」ですから、実は「調達している
資金(おカネ)」なのです。
また、自社で調達しているおカネ(資本金と繰越利益剰余金)ことを『自己資本』といい、それ以外は『他人資本』といいます。
このあたりは自社の資金繰り状況を読むにあたって、基本的な知識となりますので、
よく理解しておきましょう。
では、『運転資金』とは何でしょうか?
運用しているからと考えれば、『資産』の中にあることは想像できそうですが、ポイントは
「毎日の売買活動をするために」ということです。
それを手掛かりに資産を眺めて見ますと、『売上債権』と『たな卸資産』が売買に関係して
いる資産であることに気づきます。
運転資金=売上債権1200万円+たな卸資産560万円=1760万円
それに対して、現在、「調達している運転資金」というものがあります。
調達している運転資金とは、運転資金と真逆で、「毎日の売買活動で調達資金(得ている
おカネ)」のことをいいます。それは『買入債務』です。
調達運転資金=買入債務=支払手形0万円+買掛金480万円=480万円
ここまでが「自社の運転資金を読む」ために事前準備しておく、材料です。
では、そんな『運転資金』をどのように読めばよいのでしょうか。
読み方と言っても、「いま売上債権とたな卸資産に1760万円を必要としている」とか
「先月より増えた、減った」では、読んだことになりません。
それはただ残高を見ているに過ぎません。
では、どうすればよいのでしょうか?
それはこれまで説明した来たように、『運転資金』を多角的に比較することです。
多角的に比較して自社の『運転資金』の状況を読み、経営的な判断することです。
まず考えられることは、現在の『運転資金』と『調達している運転資金』を比較すること
です。
運転資金(売上債権+たな卸資産)1760万円-調達運転資金(買入債務)480万円
=運転資金要調達高1280万円
突然、『運転資金要調達高』という言葉が出てきましたが、難しいことではありません。
要は、いま使っている運転資金に対する「不足額」のことです。
このように比較計算すると、意外と自社の運転資金不足額が大きいことに愕然とされる
社長さんが多くおられます。
「運転資金は回っていると思っていたのに、1280万円も不足しているの?」という感じ
です。
しかし、この金額は(正しく会計処理をされているなら)紛れもない事実なのです。
これを補足しているのが『手元資金』です。
手元資金510万円÷運転資金要調達高1280万円=運転資金要調達高補足率39.8%
補足率が40%では、「自転車操業」状態であることが判断できます。
次に算出した『運転資金要調達高』と年商を比較してみましょう。
すると、何が読めるのでしょうか?
運転資金要調達高1280万円÷年商9600万円=運転資金要調達率13.3%
この『運転資金要調達率』は何を示しているのでしょうか?
直接的に考えれば「年商に対して13.3%の運転資金を準備(調達)する必要がある」と
いうことですが、もう少し噛み砕けば「当社は売上に対して13.3%の運転資金を準備を
する必要がある」、つまり、「当社は売上が100万円増加すると、新たに13.3万円の
運転資金が必要となる」ということです。
売上アップに対しては、それだけの資金準備をしなくてはならないということです。
これまでのことを振り返ると、必要な運転資金を減らすと、運転資金がラクになることが
わかります。
運転資金とは『売上債権』と『たな卸資産』でした。これを少しでも減らすことです。
ですから、ここに現金商売の強さがあるわけです。
*売上債権はゼロですから、必要な運転資金は在庫分だけです!
では、その改善方法について、考えてみましょう。
(1)売上債権を減らす
まず、売上債権を減らすということですが、これは相手があることですから、そう簡単に
はできません。
しかしだからと言って、手をこまねいているばかりにもいきません。
努力をすれば、必ず、少しは改善できます!
そのいくつかを紹介しましょう。
①受取手形は受け取らないようにする。
②全額同じ回収サイトの売掛金にするのではなく、
一部でも、着手金とか納品時一時払い金などの名目で、回収サイトを早める。
③少額は回収サイトを早め、当月末支払いにする。
(2)たな卸資産を減らす
これは前回のコラムで触れていますので、そちらを参照してください。
(3)買入債務の支払サイトを伸ばす
これも相手が決める話ですから、そう簡単にはいきませんが、お願いしてみる価値は
あります。
以上をまとめますと、次のようなイメージとなります。
ぜひ、自社の運転資金状況を判断し、必要な経営判断を意思決定をして、経営環境の変化を乗り越える経営をしましょう。
何度もいいますが、会計は決算・税務申告のためだけにしている「事務」ではありません。
経営に資するために日々行っている「経営管理(マネジメント)業務」なのです。
いまほど経営手腕が問われているときはありません。
会計・マーケティングを駆使し、常に経営を革新して、永続的に続く企業経営を目指しま
しょう。
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戦略を考えるにあたって重要なことは『思い込み』なるものを打ち破ることです。
私たちは思いのほか、思い込みに囚われて生活や仕事をしています。
そして、その結果が「いま現在である」ということを忘れてはいけないと思います。
違う結果を得たいと思うのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。
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掲載日:2020年12月9日 |カテゴリー:会計識字率
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