多くの企業は毎日帳簿をつけておられます。
そして月末の帳簿付けが終われば、試算表が作成されています。
これを現代の表現に変えれば「毎日会計ソフトで入力して、翌月には自動的に月次試算表が
出来上がっている」という感じになります。
しかしそれなのに多くの中小経営者は多忙や仕事を理由にして、そのように出来上がって
いる月次試算表を見ていないと言われています。
逆に、規模が大きい中小企業経営者や大企業経営者になればなるほど、月次試算表をよく見
ていると言います。
なぜ、中堅企業や大企業の経営者は月次試算表を必ず見ておられるのでしょうか?
それは自社の経営状態を確認するためです。
ちょっと、ヘンだと思われませんか?
経営状態が不安定な中小企業経営者が月次試算表を見ないで、それより経営状態が安定して
いる中堅企業や大企業の経営者の方がよく月次試算表を見てるとは・・。
実はここに、事業が大きくなった理由や経営がより安定している理由があります。
現代の日本は、人口が減り出している状況です。さらに若い人より年配者が増加している
状況です。
世界中どこも経験していない状況に向かって、いま日本経済は進んでいるということです。
そしてそのうえに新型コロナ禍です。
最近は冬場に向かうに連れて、新型コロナ感染者の数が増え出して来ています。
いつ春先のように、緊急事態宣言が再発令されてもおかしくない状況になりつつあるように
思われます。
客観的に見れば、こんなに経営環境が大きな波で揺れ動いているのに、これまでの経験や
勘だけで経営をされるなんて考えらますか?(しかも新型コロナ禍は経験していません!)
ふつうでは考えられません。これが船舶なら座礁してしまいます。なおさら小型船舶なら、
木っ端微塵です。
そこで海図や船の状況を知る資料が会計資料、すなわち「月次試算表」なのです。
今回はそんな月次試算表の「会計の読み方」を紹介していきます。
その第1回は『手元資金(キャッシュ)の読み方』です。
手元資金は企業の資産の中でも、いまもっとも重要視されている資産であり、最重要管理
項目の資産です。新型コロナ感染拡大で売上高が大きく変動する中で、事業継続のために、あらめてその重要性を説く必要はないかと思います。
手元資金とは、下記のとおり、現金と預金の合計です。
現金10万円+預金500万円=手元資金510万円
手元資金は多ければ多いほど、経営は安全ですので、中小企業の場合は多ければ多いほど「良い」と理解するべきです。
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*上場企業や大企業の場合は第3者の株主が存在しますから、あまり手元資金が多すぎると
積極的に利益を上げようとしていないと批判されることがありますが、中小企業の場合は
そんな株主の存在は基本的にありません。ほとんどの場合が、経営者だけが出資している
だけですので、上場企業などの場合と判断は違います。 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
では、そんな手元資金をどのように読めばよいのでしょうか。
読み方と言っても「いま510万円ある」では読んだことになりません。
ただ計算しただけに過ぎません。
また「多ければ多いほど経営は安全といわれるので、もっと増やそう」というのも読んだ
ことになりません。
ただ「火の用心」と繰り返しているに過ぎません。具体的にどのように火の用心すべきかが肝心です。
では、どうすればよいのでしょうか?
それは多角的に手元資金を比較することです。
多角的に比較して、会社の手元資金状況を読み、経営的な判断をすることです。
では、どんなことと比較すれば良いのでしょうか?
まず考えられることは「毎月の売上高」と比較です。
手元資金510万円÷平均月商800万円=平均月商0.6カ月分
毎月の売上高は、会社の1カ月の生活費だとも言えます。
毎月の売上高には、毎月の売上原価も、毎月の人件費も、毎月の経費も、そして毎月の利益
(黒字の場合)も含まれています。また毎月の利益は毎月の借入金返済原資でもあります。
つまり、家計的に言えば、生活費プラス貯金みたいなものです。
その平均月商の何カ月分の手元資金があるのかということです。
では、どのくらいあれば良いのでしょうか。ちょっと考えてみてください。
それは最終的に経営者自身が判断することですが、売上高1カ月分程度ではこのコロナ禍、ちょっと心許ないと言わざるを得ません。せめて2~3カ月分は欲しいですね。
これは「毎月の売上高」という大雑把な生活費の捉え方とは違い、もう少しシビアに、
最低額の生活費と比べようとする考え方です。
最低固定費とは売上がゼロでも必要となるおカネです。
具体的には人件費、家賃や光熱費などの経費、それに借入返済額などです。
手元資金をこれと比べます。
手元資金510万円÷月額最低固定費300万円=月額最低固定費1.7カ月分
この考え方では月数が平均月商分と比べた時より多く必要となります。
少なくとも月額最低固定費の向こう3カ月分ぐらい、今回のコロナ禍で学べば6カ月分程度の手元資金を持ちたいものです。
毎月の調達運転資金はどう計算すれば良いのでしょうか? ちょっと難しそうですね。
しかし、実は月次試算表にはしっかりそれが表示されているのです。
それは、流動負債の買入債務と未払金及び未払費用と預り金、それに毎月の借入金返済額の
合計です。これらが毎月会社を回していくための調達運転資金となります。
買入債務とは毎月支払う仕入代金で、手形を使っていれば支払手形と買掛金の合計です。
未払金及び未払費用は、現金で支払った分を除いた毎月の経費代金になります。
預り金とは、従業員から預かっている社会保険料とか源泉税です。
それらに借入金の毎月の返済額の4つがおおよその『毎月の調達運転資金』となります。
もっとザックリと考えれば、流動負債合計が毎月必要な運転資金と考えても、別段差し支え
はありません。
手元資金510万円÷月次調達運転資金500万円=月次調達運転資金1.0カ月分
この考え方では最低でも月次調達運転資金の2カ月分程度は持ちたいですね。
できれば、月次調達運転資金の6カ月程度の手元資金を持ちたいところです。
また、借りている借入金残高と比較することも大事なことです。
いまは金融庁の行政指導により金融機関が返済猶予に応じてくれる場合も多くありますが、
とは言えども借入金は返済しなければならないモノです。
その返済は利益から資金になった手元資金からするわけです。
そこで手元資金と借入金残高を比較し、状況を認識しておくことは重要です。
手元資金510万円÷借入金残高3600万円=14.2%
ちなみに借入金残高とは、短期借入金残高と長期借入金残高の合計です。
考えてみると、借入当初はすべて預金に融資額が入金されて来ますので、その比率は
100%以上であったわけです。
そして借入用途に応じて借入金を使いますのでその割合はぐんと下がりますが、その後は
徐々に上がっていくべきものです。
従って一律に「常に何%以上」という言い方はできませんが、融資を受けた以上、常にその割合を確認し、経営者としてその状況を把握しておくべきものかと思います。
最後に手元資金の状況を改善する方法について簡単に触れましょう。
(1)黒字経営
なんといっても「黒字経営をする」ことが絶対的な基本です。
大企業は経営状況に余裕がありますから、ある程度長期スパンで考えてもよいと思いますが
(それでも東芝や日産などのことを思い出してください。たとえ経営状況が悪い場合でも、
大企業はその改善期間に2年も3年もかけません)、中小企業はそれよりも余裕がないわけ
ですから、原理原則『毎期黒字経営』が大原則です。
少なくとも繰越利益が赤字になるなんてあり得ない!ぐらいに思われるべきかと思います。
(2)役員借入
いいことではありませんが、中小企業の場合は経営者が出資し、事業を起こしているわけ
ですから、資金的にも公私がつながっていることが実情です。
そこで手元資金に余裕がないのであれば、役員借入を起こすことも一手です。
(3)融資
銀行借入や補助金なども含め金融機関・行政などから融資を受けることが考えられます。
このうち、金融機関からの融資については、昨年あたりまでは「無借金経営」ということが
声高らかに言われていましたが、コロナ禍のいまは、それよりも借入をしてでも資金調達を
行い、手元資金を増やすことを優先している企業が増えています。
これから再び緊急事態宣言など、厳しい経営環境を迎えるかもわかりませんので、早めに
金融機関に融資を申し込むのも、一手かもわかりません。
以上をまとめますと、次のようなイメージとなります。
ぜひ、自社の手元資金状況を判断し、必要な経営判断を意思決定をして、厳しい経営環境の
変化を乗り越える経営をしましょう。
これまでも何度か申しあげてきましたが、会計は決算や税務申告のためだけにしている
「事務」では決してありません。
むしろ会計は会社経営の判断をするために日々行っている「経営管理業務」なのです。
いまほど、経営者の『経営手腕』が問われているときはありません。
会計とそしてマーケティングを駆使して常に経営を革新し、永続的に続けられる企業経営を
目指しましょう。
-----------------------------------------戦略を考えるにあたって重要なことは『思い込み』なるものを打ち破ることです。
私たちは思いのほか、思い込みに囚われて生活や仕事をしています。
そして、その結果が「いま現在である」ということを忘れてはいけないと思います。
違う結果を得たいと思うのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。
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掲載日:2020年11月18日 |カテゴリー:会計識字率
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