会計で経営力を高めるシリーズ 直接P/L

第15回会計で経営力を高めるシリーズ

           『直接原価計算方式によるP/L』

 今回は管理会計の手法として『直接原価計算方式による損益計算書』を紹介します。

 

1 通常の損益計算書の問題点

 前回のP/Lは一般的な損益計算書ですが、制度会計に基づく損益計算書ですので、

「全部原価計算方式」による損益計算書です。

 それら全部原価方式の損益計算書は経営的側面から見ると次のような問題があります。

 

1.余った材料や商品は当期から控除して次期に繰り越す仕組みになっている

 通常のP/L一番の特徴は、今期売り残った商品や原材料はすべて「棚卸資産」として

次期に繰り越す仕組みになっており、今期の損益計算から除外することにあります。

 これだと経営感覚的にいえば、余分に仕入して、支払った商品仕入れや原材料費などの

ペナルティ(仕入判断の誤り)は当該事業年度では問われないことになり、利益が出やす

く計算されることになります。

 

2.原価要素があいまいになっている

 さらに、製造にかかる人件費なども「労務費」として、また、電気代等も「製造経費」

として売上原価に含まさせることになっています。

つまり、売上原価に商品仕入れや材料費などの直接原価と、人件費などの間接原価が含ま

れることになります。

 また、変動費と固定という見方でみれば、それらが混在していることになります。

 そうすると、「売上原価」とはいいながら、100%原価に相当する費用とあいまいな

費用が売上原価になってしまっています。

 

3.するとどういうことが起こるのか?

 今期は先行きを読むことに失敗して「余分に仕入してしまった!」などという時に予想

以上に利益が出ることになったり、「今期は仕入したものはすべてうまく売れ切った!」

などというときに予想以上に棚卸資産代や間接原価がかかっており、儲けが出なかった、

ということが起こり得ます。

 会計制度上は決まったルールのうえで決算書を作らなくてはならないので、仕方がない

としても、経営上は経営判断とその結果にミスマッチが起こるということになります。

 

 そこで登場するのが管理会計としての『直接原価計算方式による損益計算書』です。

 昔なら、制度会計と管理会計の二つの損益計算書を作るなんて大変でしたが、いまや

IT化によって短時間に簡単に二つの損益計算書は作成できますので、経営判断も正当に

評価でき、税務申告にも対応できるようになっています。

 では、通常のP/Lである『全部原価計算方式による損益計算書』と管理会計のP/L

である『直接原価計算方式による損益計算書』の違いを見ていきましょう。

 

2 全部原価方式P/Lと直接原価方式P/Lの違い

 <事例>

  売上高4000万円、商品・材料仕入2000万円、前期在庫400万円、今期在庫800万円、

  労務費400万円、製造経費100万円、販管人件費1000万円、その他販管費200万円

  だったとして、二つのP/Lを作ってみましょう。

 

 【通常の全部原価方式損益計算書】    【管理会計の直接原価計算方式損益計算書】

  ①売上高    4000万円       ①売上高    4000万円      

  ②売上原価計  2100万円       ②直接原価   2400万円      

    商品仕入・材料費 1600万円*     商品仕入・材料費 2000万円

    *期首400+仕入2000-期末800     期首在庫      400万円

    労務費       400万円

    製造経費      100万円

  ③売上総利益  1900万円       ③限界利益   1600万円      

  ④販管費計   1200万円       ④経費計    1700万円         

    販管人件費     1000万円      人件費計      1400万円

    その他販管費    200万円      その他経費計    300万円    

  ⑤営業利益   700万円        ⑤営業利益    -100万円        

  なんと結果(営業利益)は800万円も差が出ます。

  経営感覚的に言えば「黒字経営ではなく赤字経営!」で、さらに状況を悪くしてしま

  っているということです。

  もちろん、税務申告は通常のP/Lで行うわけですが、経営判断は管理会計のP/L

  で行うべきと思われます。

  なお、直接原価計算方式損益計算書は、失敗も成功も次期に繰り越せると考えません

  ので、1年1年単位で考える『期間損益』という大きな特徴もあります。

  さらに直接原価の費用科目を『変動費』、そうではない間接原価の費用科目を『固定

  費』と言います。

  管理会計を実行するには結果をクリア(明快)にするためにもシンプルにすることが

  非常に大事です。 ですから、準固定費などという考え方はしません。

 

3 管理会計のP/Lだからこそできる経営分析

 直接原価計算方式による損益計算書にはもう一つの大きな利点があります。

 それは「経営の分析が出来る」ということです。

 直接原価計算方式損益計算書を作成すると自社の損益状況について、次のようなことが

 わかります。

1.限界利益率  限界利益÷売上高×100

  これは売上高に占める限界利益の割合ですが、正味の自社の付加価値率でもあります

  これを高める販売を行うことが重要です。

2.変動費比率  変動費合計÷売上高×100

  これは売上高に占める変動費(直接原価)合計の割合ですが、これを低くする経営が

  重要です。

  変動費を低くするとは、社内的には在庫の問題であり仕入品目や仕入数量の問題です。

  社外に目を向ければ仕入れ業者の選定の問題でもあります。

3.労働分配率  人件費合計÷限界利益×100

  これは限界利益(つまり付加価値)に占める人件費関連総額の割合ですが、どの程度

  限界利益から人件費に分配しているのかということです。

  会社の安定度を増すためにはもちろん低く抑えることが大事になりますが、しかし、

  一方、実額は増加させていくことが大事です。

  給料は毎期毎期昇給させて、労働分配率は抑えるという経営が大事です。

  なお、この労働分配率は役員と従業員に分けて把握することも非常に大切なことです。

4.その他固定費比率  (固定費合計-人件費合計)÷売上高×100

  これは売上高に占める人件費を除く、固定費(一般経費)の割合ですが、これを総額

  では抑えること、増やさない経営が重要です。しかし、あまり抑えすぎることばかり

  に傾注すると組織に活力がなくなってきますので、メリハリが大事と言えます。

5.損益分岐点売上高  固定費合計(人件費+その他固定費)÷限界利益率

  これはいまの限界利益率で最低限、固定費だけを賄える売上高を算出する方法です。

  売上高がこれ未満になれば”赤字”、これを超すと”黒字”になるという、分岐点の売上

  高のことです。

6.損益分岐点比率  損益分岐点売上高÷実績売上高×100

  これは赤字と黒字に分かれる損益分岐点売上高と実績売上高の比較ですが、100%

  超であれば、損益分岐点売上高の方が大きいということですから赤字経営ということ

  です。

7.経営安全率  100-損益分岐点比率

  これは損益分岐点売上高になるまでに何%売上が落ちても、赤字転落にならないのか

  という安全率です。

  ほんの少し前までは経営安全率が50%になれば超優良企業で、どんな経営環境にな

  ってもまず安心安全と言われていましたが、今回の新型コロナ感染拡大でそんな固定

  観念は吹き飛びました。

8.目標売上高の試算  (目標利益+予定固定費総額)÷予定限界利益率

  これは翌期の経営計画を立てる場合には大変有効なシミュレーション計算式ですから、

  ぜひ、知っておきたいものです。

  設定した目標利益と予定した人件費および固定費を確保できる売上高が算出できます。

 

 なお、最後に「変動損益計算書」なる言葉もお聞きになったこともあるかと思いますが、

 変動損益計算書とこの『直接原価方式損益計算書』は「似て非なるものである」という

 ことを知っておいてください。

 

このようなことを考えながら会計をすると、会計で会社を徐々に強くできます。

いかがでしょうか、会計は意外と楽しいもので、経営に役立つものだと思われませんか。

少しでもそのように思われてきたのなら、それだけ貴社の経営力が高まって来ていることを示しています。

会計を楽しみながら、荒波に強い会社になるよう取り組みませんか!?

 


掲載日:2020年5月27日 |カテゴリー:会計識字率

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