前回「損益計算書の構造」の復習
1.売上高は事業資金の源泉でもあり、またお客様の支持のバロメーターです。
ですから、少しずつでも増やしていかなければなりません。
2.売上原価とは資金の使途であり、できる限り無駄をなくすることが大切です。
3.売上総利益とは自社の魅力度といえるものであり、魅力度が高ければあるいは
高められれば売上総利益は高められるものです。
4.販管費は資金の使途であり、使うべきところには使い、抑えるべきところは抑える
というメリハリが大事です。
5.営業利益は本業ベースの利益であり、社長・従業員全員による経営努力の成果です。
6.営業外収益は金融費用とも言い換えられトップマネジメントの重要な項目の一つです。
7.経常利益は最終的な経営トップマネジメントの成果です。
8.経常利益から法人税等を引いた当期純利益が繰越利益剰余金となり、
自己資本を厚くする元になります。
経理とは「経営を管理する」ことです。正しい経理は事業経営の状況をありのままに伝え
てくれますので、早期に対策を講じることが可能になります。だから、会計で強い会社が
作れ、「会計は会社を強くする」ということが言えるのです。経理は決して会計事務所などに丸投げすればよい業務ではありません。自社でしっかり行うことが大切です。
第10回目の今回は「P/L(損益計算書)の見方」です。
P/Lの見方は大きく分けて下記の通り3通りあります。
1. 売上高との比率で見る
2. B/Sと比べて見る
3. 損益分岐点で見る
大切なことは分析値名を覚えるとか計算式を覚えることではなく、理屈を知ることです。
理屈さえ理解できれば、社長独自の意味のある見方ができます。
それが自社の経営マネジメント力に繋がっていきます。
では、一つ一つ見ていきましょう。
(1)売上高との比率で見る -自社の収益構造が確認できます-
①売上原価率(%) 売上原価÷売上高 ×100
この見方は自社で付けた価値、いわゆる「付加価値」を見る方法です。
①は付加価値を付けるにあたって要した費用の割合です。
当然のことながら、価値を損なわければ「低ければ低いほど」良いことになります。
原価率の評価は、前年値や同業他社と比較して行います。
改善していくためには、売上原価の明細である仕入高・材料費・労務費・外注加工費・
製造経費にわけて検討します。
②売上総利益率(%) 売上総利益÷売上高 ×100
これは自社の付加価値率です。売上原価率の裏返しですが、売上高に影響が出ない限り、
「高ければ高いほど」良いになります。
この付加価値率を上げるためには、既存の売価の見直しや新商品・新サービス・新製品の 投入などを考えます。
③売上経費率(%) 販管費÷売上高 ×100
これは売上に対して、原価を除いた販売費と管理費がどのくらいかかっているのかを見る
方法です。
これも「低ければ低いほど」良いことになりますが、それによる社内士気の影響などを
考えなければなりません。
付加価値値を上げる最大の原動力は原価などのモノではなく、「従業員」です。
いくら良い商品・サービス・製品でもそれだけでは売れません。説明力や優れた接客、
従業員の熱意、あるいはアフターフォローなどがあって、初めて良い商品・サービス・
製品とシナジー効果が発揮され、市場からの支持が受けれらるのです。
④売上人件費率(%) 人件費÷売上高 ×100
人件費とは、役員報酬を除いた従業員給与・労務費・法定福利費・福利厚生費など、
従業員に関する人件費です。
やはり、極力、従業員が人生をかけて働ける職場・仕事にしていかなくてはなりません。
そうでいないと自社にとって有能な人材を雇用することも定着させることもできません。
この売上人件費比率は「従業員満足度」の一部を表す指標でもあります。
人件費と売上高人件費率のバランスを管理していくことが大事です。
⑤売上営業利益率(%) 営業利益÷売上高 ×100
営業利益は売上高から売上原価と販管費を引いた本業ベースの利益ですので、
「高ければ高いほど」良いことになります。
中小小規模企業は大企業とは違って小さな商売をしていますので、本来、売上営業利益率
は大企業より高く確保しなければなりません。ですから10%は確保したいものです。
⑥経常利益率(%) 経常利益÷売上高 ×100
経常利益は営業利益から金融費用を引いた事業の通常的な利益ですから、
やはり「高ければ高いほど」良いことになります。
したがって、経常利益率は営業利益と同様に、10%程度は確保したいものです。
もし、この経常利益率が営業利益率に比べて大きく下がっているようであれば、
支払利息が負担になっているのかもわかりません。その場合は、有利子負債をなんとか
減らせというシグナルが発信されていると理解すべきです。
(2)B/Sと比べる -資産・資本の運用状況が確認できますー
①総資産(総資本)利益率(%) 経常利益÷総資産(総資本) ×100
事業とは経営者から見ると「資本の投資」です。おカネを投資する以上、リターンが
あってしかるべきです。
その状況をこの総資産利益率または総資本利益率で見ます。
したがって、「高ければ高いほど」良いとことになります。
一般的モデルでは、投資額の2倍の売上を上げ、その目標利益率は10%ですので、
総資産利益率の目標利益率は20%となります。
しがたって、事業を経営する以上、総資産利益率が20%以上となるように経営をしたい
ものです。経営者である社長にはその経営力が求められます。
ちなみに総資産利益率は英語で「Return On Assets(資産の収益率)」といいますので ROA(アールオーエー)とも呼ばれています。
②総資産(総資本)回転率(回) 売上高÷総資産
総資産回転率(総資本回転率)とは、事業で運用している資産で何倍の売上を上げたかと
いうことですので「高ければ高いほど」良いことになります。
大企業では2回転弱が多いようですが、中小・小規模企業の場合は少ない資産を運用して いますので、2回転以上はめざしたいところです。
③棚卸資産回転率(回) 売上高÷棚卸資産
棚卸資産回転率は、棚卸資産の何倍の売上高があるかということを示しています。
もし在庫を1カ月分持つような事業であれば、12回程度となります。
1週間であれば52回程度となります。
在庫商品は売れれば売れるほど良いわけですから、棚卸資産回転率も「高ければ高い
ほど」良いことになります。
棚卸資産回転率は業種によって大きな違いがありますが、流通がどんどん発達しています
ので、時代とともに高くなっている傾向があります。
また、棚卸資産回転率が高いということは、売上高に比べて在庫が少ないということです
から、その分、資金繰りは楽になります。
④手元流動性比率(月) 手元流動資産÷平均月商
手元流動性とは現金と預金のことです。これを平均月商と比較することで、自社の安全性 を見ることができます。
平均月商とは、家計では平均収入のことでので、その何カ月分の手元流動性資産があるか によって、事業経営の安心感は全く違います。したがって「多ければ多いほど」良いわけ
ですが、最低でも売上2~3カ月分の手元流動資金は持ちたいものです。
(3)損益分岐点で見る -営業活動の採算点が確認できます-
損益分岐点とは、損と益が分かれる点、つまり、収支トントンの売上高、利益ゼロの売上 高点という意味です。それによって現在の営業活動の採算点などが読み取れます。
①変動費 (円) 商品仕入+材料仕入
変動費率(%) 変動費÷売上高 ×100
変動費とは、売上高の増減と比例する費用という意味です。
つまり、直接原価のことあり、商品仕入と材料仕入などが該当します。
※外注加工費は本来内製すべきものを外注しているわけですから、変動費としない考え方 がシンプルだと思います。
②粗利益 (付加価値額)(円) 売上高-変動費
粗利益率(付加価値率)(%) 粗利益÷売上高 ×100
売上高から変動費を引くと粗利益、つまり自社で付けた正味の付加価値額がわかります。
これを売上高で割ると粗利益率となり、これが自社の大まかな儲け率です。
一部では限界利益率とも呼ばれ、高いと自社の取扱商品は競争力が高く、低ければ競争力 が低いと判断できます。
③固定費(円) 総費用-変動費
人件費(円) 労務費+給料+賞与+法定福利費+厚生費
その他固定費(円) 固定費ー人件費
固定費とは、売上高の増減と比例しない費用という意味です。
電気代や旅費など、一部増減する費用もあるかもわかりませんが、比例はしないので固定 費です。また、営業外損益も固定費です。
その中で人件費に関するものとそれ以外のものを区分しましょう。
④経常利益(円) 粗利益-固定費
粗利益から固定費を引くと経常利益となります。
⑤損益分岐点売上高(円) 固定費÷粗利益率
損益分岐点売上高(略して損益分岐点)とは、収支トントン、利益ゼロの売上高でした。
利益ゼロとは 固定費=粗利益 です。
黒字損益は 固定費<粗利益 の状態です。
赤字損益は 固定費>粗利益 の状態です。
したがって、固定費を粗利益で割ると自社の損益分岐点売上高が計算できます。
⑥損益分岐点比率(%) 損益分岐点売上高÷実売上高 ×100
経営安全率(%) 100-損益分岐点比率
損益分岐点売上高を実際の売上高で割ると、損益分岐点比率(実際の売上高に対する
割合)が計算できます。
利益セロ =100% となります。
黒字損益 <100% と100%より小さくなります
赤字損益 >100% と100%より大きくなります。
さらにそれを100%から引いた数値は「経営安全率」と呼ばれ、経営安全率分売上が
下がっても収支トントンとなります。経営安全率は20%以上(つまり損益分岐点比率は 80%以下)を常にキープしたいものです。
⑦労働分配率(%) 人件費÷粗利益 ×100
労働分配率とは、粗利(付加価値額)に占める人件費の割合ですが、小規模ほど高くなる
傾向にあります。労働分配率が高くなれば、それだけ人件費以外の固定費を抑える必要が あります。
今回は次のことを覚えておきましょう。
1.損益計算書の見方には、
売上高との比率で見る法、B/Sと比べて見る法、損益分岐点を見る法の3つがある。
2.売上高との比率で見れば「自社の収益構造」がわかる。
3.損益分岐点を見れば「自社の営業活動の採算点」などがわかる。
4.P/Lも含めて、会計資料の見方で大切なことは、分析値名とか計算式を覚えることでは なく、理屈を知ることである。理屈が分かれば、独自の意味ある見方もできる。
経理は「経営を管理する」ことであり、正しい経理処理は会計資料にありのままの会社の
経営状況を表します。ですから、早期に対策を講じることが可能となり、会計で強い会社が作れ、「会計は会社を強くする」のです。
掲載日:2018年10月3日 |カテゴリー:会計処理, 会計識字率, 経営技術
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