380万中小企業の「試算表」読み方⑮

第15回 P/L損益計算書「損益」の読み方・見方

 損益計算書の見方の最後として「損益分岐点」を紹介しましょう。

損益分岐点は自社の「収益構造」を明らかにし、何よりも自社の「付加価値経営」の状況を

教えてくれます。

事業とは、いかに元の商品や材料あるいはサービスに、お客様が納得する付加価値を加え、

粗利益を稼ぎ、経費や人件費に適正な分配をした後、多くの利益を残すかということです。

損益分岐点はそんな自社の状況を的確に教えてくれます。

少し難しいかもわかりませんが、よくご理解ください。

 

1 損益分岐点の基本知識

まず、最初に損益分岐点の基本知識を勉強しましょう。

(1)損益分岐点売上高

 損益分岐点とは、儲けがゼロとなる売上高、収支トントンの売上高のことを指します。

 売上高がそれを上回れば利益が生まれ、それを下回れば損失となります。

(2)損益分岐点比率

 次にその損益分岐点売上高を実際の売上高で割れば、損益分岐点比率が計算できます。

 損益分岐点比率とは損失と利益の分岐点を示しますので、低ければ低いほど良く、

 収益力のある収益構造であることを示します。

(3)経営安全率

 さらに損益分岐点比率を100%から引くと、経営安全率と呼ばれる、損益分岐点までの

 余裕率が求められます。

 たとえば、損益分岐点比率が90%だと、経営安全率は10%となり、売上高があと

 10%下がっても赤字にはならないということになります。

 

2 一般の損益計算書との違い

ここで一般の損益計算書と比較してみましょう。

一般の損益計算書は、「制度会計」と呼ばれる申告する際に作成する決算書の作成ルールに

基づいて作成され、「全部原価損益計算書」とも呼ばれます。

それに対して、各企業が自社の経営管理上、会社独自のルールに基づいて作成するものは

「管理会計」と呼ばれ、「変動損益計算書」とか「直接原価損益計算書」などがあります。

(1)全部原価損益計算書

 一般の決算用損益計算書は「全部原価損益計算書」であり、売上原価に直接原価と

間接原価を加えて計算するように決められています。

 直接原価とは、商品仕入高と材料仕入のことです。

但し、それぞれの仕入に期首たな卸高を加え、期末たな卸高を引きます。

従って、いくら多くの仕入をしても、期末たな卸高が増えれば、それだけ原価が少なく

なります。

 間接原価とは、製造における労務費と外注費を含む製造経費のことです。

(2)変動損益計算書

 「変動損益計算書」は管理会計の損益計算書であり、費用のうち、売上の増減に比例する

変動費だけを売上原価として計算します。

 従って、売上原価のうちの商品仕入と材料仕入、外注加工費、電力費などを変動費とする

場合が多いようです。しかし商品仕入も材料仕入も「たな卸高の増減」を加味しますので、

最終的な利益は全部原価損益計算書と一致します。

 変動費にはその他にも、販売費および一般管理費のうちの販売費の一部である広告宣伝費

とか梱包代とか発送配達費などを加える場合もあります。

その区別が恣意的なので、少しわかり辛い部分があるかもしれません。

 売上高から変動費を引いた利益のことを全部原価の売上総利益に対して、「限界利益」

呼ばれます。

(3)直接原価損益計算書

 「直接原価損益計算書」はダイレクト・コスティングとも呼ばれ、これも管理会計の損益

計算書のひとつであり、直接原価だけを売上原価として計算する損益計算書です。

 この方式では仕入した商品と材料だけを原価としますので、自社で付けた「付加価値」

はっきりわかります。さらに期間損益で計算しますので、たな卸の増減は考慮しません。

 したがって、全部原価損益計算書の最終利益とは一致しませんが、経営者の感覚に即した

損益計算ができます。

(4)例題でその違いを確認する

 では、それぞれの違いを例題で確認しましょう。

《例題》売上高6000万円

 商品仕入高  1000万円  期首たな卸高100万円  期末たな卸高150万円

 ※商品仕入原価は、100+1000-150で、950万円となります。

 材料仕入高  1000万円  期首たな卸高100万円  期末たな卸高150万円

 ※材料仕入原価は、100+1000-150で、950万円となります。

 労務費    1000万円

 外注加工費   500万円

 その他製造経費 500万円  ※うち、変動費は電力費100万円とします。

 販管費    1500万円  ※うち、変動費は梱包費及び発送配達費の100万円と

                 します。

①全部原価損益計算書の場合

 売上高   6000万円

 売上原価  3900万円(950+950+1000+500+500) ※売上原価率65.0%

 売上総利益 2100万円                ※売上総利益率35.0%

 販管費   1500万円

                             ※売上高販管費比率25.0%

 営業利益   600万円                ※営業利益率10.0%

②変動損益計算書の場合

 売上高   6000万円

 変動費   2600万円(950+950+500+100+100)  ※変動費比率43.3%

 限界利益  3400万円                ※限界利益率56.7%

 固定費   2800万円(1000+400+1400)      ※固定費比率46.7%

 営業利益   600万円                ※営業利益率10.0%

③直接原価損益計算書の場合

  売上高   6000万円

  直接原価  2000万円(1000+1000)       ※直接原価率33.3%

  付加価値  4000万円               ※付加価値率66.7%

  固定費   3500万円(1000+500+500+1500)  ※固定費率58.3%

  営業利益   500万円               ※営業利益率8.3%

それぞれによって、粗利益(売上総利益・限界利益・付加価値)が違うことがわかります。

また、直接原価では期間損益で計算しますので、意外と利益が少ないことがわかります。

このことは、たな卸高が増えれば、実態はともかく、利益が出ることを表しており、

通常の損益計算書は利益が出しやすい損益計算書とも言えます。

 

3 変動損益計算書・直接原価損益計算書の特徴

 大事なことはここからです。

通常の損益計算書を変動損益計算書あるいは直接原価損益計算書でも管理すると、

次のように経営に活かせるということです。

(1)損益分岐点売上高がわかる

①変動損益計算書による損益分岐点売上高

  = 固定費÷{100-(変動費÷売上高)}

 つまり、限界利益率(=100-変動費比率)で固定費を割ると、自社の損益分岐点

 売上高が算出できます。

 例題で言えば、 固定費2800÷限界利益率56.7%=4938万円 となります。

 しかし、これだと「変動費が何か?」という不明確な部分がありますので、

 もっとシンプルに考えられるのが、直接原価損益計算書による損益分岐点売上高です。

②直接原価損益計算書による損益分岐点売上高

  =(費用ー直接原価)÷{100-(直接原価÷売上高)}

 例題で言えば、 固定費3500÷付加価値率66.7%=5247万円 となります。

 よりシビアに損益分岐点売上高が計算できます。

(2)損益分岐点比率がわかる

①変動損益計算書による損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高÷売上高実績×100

 例題で言えば、 損益分岐点売上高4938÷売上高実績6000×100=82.3% 

 となります。

②直接原価計算書による損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高÷売上高実績×100

 例題で言えば、 損益分岐点売上高5247÷売上高実績6000×100=87.5% 

 となります。

(3)経営安全率がわかる

①変動損益計算書による経営安全率 = 100%-損益分岐点比率

 例題で言えば、 100%-損益分岐点比率82.3%=17.3% となります。

②直接原価計算書による経営安全率 = 100%ー損益分岐点比率

 例題で言えば、 100%-損益分岐点比率87.5%=12.5% となります。

(4)労働分配率がわかる

 「労働分配率」とは、限界利益あるいは付加価値から人件費にどの程度分配したか

 ということです。

  労働分配率 = 人件費総額 ÷ 限界利益又は付加価値 ×100

 いま大企業では利益が増えているのに人件費は上がっていないと問題になっていますが、

 まさにこの労働分配率が下がっているということです。

 これからは大企業以上に中小企業においては、知恵を出して工夫する高付加価値経営が

 求められてきますので、労働分配率は大きな問題です。

 なお、労働分配率は、役員報酬を含む全体の労働分配率と従業員だけの労働分配率に

 分けて管理することが望ましいとされています。

(5)来期の必要売上高が予測できる

 最後の特徴は「来期の必要売上高」の予測計算できるということです。

 来期の必要売上高 =(必要固定費+目標利益)÷ 目標限界利益率又は目標付加価値率

①変動損益計算書の例題で言えば

 仮に、必要固定費3000万円、目標営業利益1000万円として、目標限界利益率を

 58%とすれば

 来期の必要売上高=(3000+1000)÷58%=6896万円(896万円増) 

 となります。

②直接原価計算書の例題で言えば

 仮に、必要固定費3800万円、目標営業利益1000万円として目標付加価値率を

 70%とすれば

 来期の必要売上高=(3800+1000)÷68%=7058万円(1058万円増)

 となります。

 

今回は少しむずしかったですか?

でも、こうやって損益計算書をみると、いろいろな課題や目標が見えてくるかと思います。

損益計算書を活かすうえでは今回のは大切なことですので、ぜひ、読み直してください。

 

 

このように、損益計算書を月次試算表から読めるようになると、営業活動上の問題点が思い

浮かんできます。それだ大切なことで、「あれっ?」と思ったことは確認し、対策を考え、

そして実行してみることです。

なかなかすぐには改善できないかとも思いますが、その改善試行を繰り返していくことが、

あなたの会社を良くしていきます。

このように、月次試算表を毎日の経営に活かすことが、黒字経営と強い会社つくりを可能に

させます。


掲載日:2017年11月8日 |カテゴリー:会計識字率, 経営技術

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