第10回 B/S総資本「借入金」の読み方・見方
1 短期借入金と長期借入金の概要
借入金は「有利子負債」とも言われ、他の負債との違いは「支払利息」がつくことです。
借入金には「短期借入金」と「長期借入金」がありますが、その借入目的は自ずと違って
きます。
(1)短期借入金
短期借入金は元来、運転資金(賞与支払や日常経営資金)目的の短期間の借入です。
金利は高くなりますが、借入期間が短いので、実際に支払う利息はそれほど多くはなりま
せん。従って、カードローンなど短期目的の融資制度なのに、審査も甘いということで
安直に借りて長期間借りることになってしまうと、支払利息は想像以上に高額となります。
短期借入金の要点は、返済手当てが出来ており、用が済んだらすぐ返すということです。
(2)長期借入金
一方、長期借入金は設備投資目的の借入ですので、金利は低くなりますが、返済期間が
長いので、実際に支払う利息合計は多くなります。従って、投資効果もあまり検討せずに
借りてしまうと、経営的には過大な負担を負うことになります。
長期借入金の要点は、投資効果から借入金の返済ができるかということです。
(3)借入金の勘定科目
借入金に関する科目は、流動負債として「短期借入金」と「1年以内返済長期借入金」が
あり、固定負債科目として「長期借入金」があります。
この区分は、会社の経営状況を試算表で判断する場合に重要な情報となりますので、
正しく区分する必要があります。
税理士・職員の中には「どちらでもいいですよ」と言って、さも物分かりの良さを感じ
させるような税理士・職員もいるかもわかりませんが、実際は逆です。
それは、決算書・申告書のことだけを考えている古い税理士・職員である証左ですので、
関与変更を検討する必要もあるかと思います。
2 短期借入金を借りた時点で経営的にはアウトの状況だと知る
ふつう、商売とは、開業当初を別にすれば、売れたお金で商売は回って行くものです。
あるいは行かせるものです。 そうは思われませんか?
短期借入金とは、企業経営の賞与など日常的な支払いに対する借入金ですから、
本来であれば「売上高」を源泉とした資金の中で運用できるべきであり、短期借入金を
起した時点で、経営的には黄色ランプが点滅していることを自覚せねばなりません。
短期借入を起こそうと考えた時点で、経営的にはもう問題があり、直ちに改善に向けた
取り組みをしなければなりません。
現在では多くの中小・小規模企業において、「賞与資金が足りないから」とか、
「納税資金が足りないから」など、さまざまな理由で運転資金用途で金融機関から融資を
受けているという話をよく聞きますが、「とんでもない」という意識を持つことが
まず大切だと思います。
3 借入金の読み方・見方
以上のことを基本知識として、月次試算表から借入金に関する状況を読みましょう。
(1)借入金依存度をチェックしたい
借り入れしないで事業資金が回るならばそれが理想的です。
しかし、事業を営む以上、借り入れすることは、普通の行為とも言えます。
ただ、過剰な借り入れは経営の健全性からも避けたいところです。
では、それは、どう読めばわかるのでしょうか?
それは借入残高と平均月商を比べればわかります。
借入金依存度 =借入金残高 ÷ 平均月商
もし、この「借入金依存度」が平均月商の6倍以上あれば、明らかに借り過ぎで、経営を
圧迫している状態かと思います。早急にリスケなど手を打つことを考えねばなりません。
できれば、この「借入金依存度」は3倍以内にコントロールしたいものです。
このことを専門的には『借入金対月商倍率』と呼んでいます。
(2)現状でのおおよその借入金返済期間を予測したい
現在の経営状況から、借入金の返済期間をチェックします。
この返済期間が実際の返済期間より長ければ、資金繰りは厳しいと言うことです。
それは次のような読み方をします。
現在の経営状況からの返済期間 = 借入金残高 ÷(平均経常利益+減価償却費)
※(平均経常利益+減価償却費)が月次平均金額であれば、算出される返済期間の単位は
「ヵ月」となります。
年間平均金額であれば、算出される返済期間の単位は「年」となります。
この読み方には2つの前提があります。
ひとつは「売掛回収はすべてできる」という前提です。
もうひとつは「事業で得た資金はすべて借入返済に回す」ということです。
ですから、算出される返済予測期間は最短の返済期間です。
この最短の返済期間が、実際の返済期間より長ければ、さきほど申しあげたとおり、
「資金繰りは厳しい」と言わざるを得ません。
現在、中小・小規模企業の3分の2が赤字経営だと言われていますので、
如何に借入返済が大変か、想像できると思います。
このことを専門的には『債務償還月数(又は債務償還年数)』と呼んでいます。
(3)直近の返済状況をチェックしたい
3つめの読み方は、近々の返済状況を読む方法です。それは次のような読み方をします。
近々の返済状況 = 手元資金 ÷ 1回当たりの返済額
手元資金とは、現金+預金のことでした。この手元資金と返済額を比べれば、返済のための
資金状況が推測できます。少なくとも返済6カ月分ぐらいの手元資金は持っておきたいもの
です。このことを専門的には『手元資金返済額倍率』と呼んでいます。
さらにザックリ見るには、預金と比べることも有効です。
預金と借入金との比率 = 預金 ÷ 借入金残高
運転資金にしろ設備資金にしろ、借り入れ当初は使ってしまいますので、低くなることも
やむ得ません。しかし、ある程度期間が過ぎれば、できれば30%程度の預金は保有したい
ところです。
3千万円借りたなら、1千万円近くの預金ということになります。
でないと融資した金融機関に対する与信が下がり、今後の融資に差し障りが生じる場合も
あります。このことを専門的には『預金対借入金比率』と呼んでいます。
このように借入金も月次試算表から読めるようになると、事前に経営対策ができるように
思われませんか? もし、そのようなことを少しでも感じ始めているあなたであれば、
きっとご自分の会社は堅実に経営していけます。
堅実に会社を経営していければ、会社は発展します。なぜなら、会社の発展は堅実継続の
結果だからです。
このように月次試算表を日々の経営に活かすことで、「黒字経営」と「強い会社」作りが
可能となることが、徐々におわかりいただけるようになって来たかと思います。
掲載日:2017年10月4日 |カテゴリー:会計処理, 会計識字率, 経営技術
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