第8回 B/S総資本「買入債務」の読み方・見方
今回から、話は「総資本」へ移ります。
総資本とは、事業で集めている調達資金の出所(調達先)でした。
調達先で分類し、総資本は「他人資本」と「自己資本」に分けられました。
他人資本は「負債」とも呼び、返済する期間の長さで「流動負債」と「固定負債」に分け
られています。
自己資本は「純資産」とも呼び、その中身は「資本金」と損益で貯めた「繰越利益」です。
そういうことを念頭に置いて、これからをお読みください。
その第1回は流動負債のひとつ、「買入債務」です。
買入債務とは、仕入の際に発生する債務です。
仕入債務とも呼びますが、具体的には支払手形と買掛金のことです。
この買入債務には一般的に2つの特性があります。
ひとつは、支払は売上回収に先立って発生するということです。
あるものを60円で仕入し、100円で売った場合、売った100円から支払うことは
できない というです。
60円、手元の資金から支払い、その後に100円が入ってくるということです。
この60円のことを「運転資金要調達高」といいます。
これは大切なことですから覚えておきましょう。
もうひとつは、売上が増えれば増えるほど、仕入も多くなるということです。
これは当たり前のことのようですが、このことは売上高が増えれば増えるほど、
同時に、さきほどの「運転資金要調達高」が大きくなるということを示しています。
これも大切なことで、覚えておきましょう。
このふたつを前提に買入債務の読み方を考えます。
1 買入債務に対する支払能力をチェックする
先ほども言ったとおり、現金商売を除き、仕入れた商品の売上で仕入代金を支払うことは
できません。普通の事業は飲食業や小売業の場合を除き、ほとんどが掛け売りなので、売上
代金で仕入代金を支払うことはできません。
では、どこから支払うのでしょうか? そうです、手元資金で支払うこととなります。
したがって、手元資金と買入債務を比べることで、その資金繰り状況が判断できます。
買入債務支払能力 = 手元資金 ÷ 買入債務
=(現金+預金)÷(支払手形+買掛金)
100%以上あれば「支払能力はある」といえますが、手元資金を使うことは他にもあり
ますので、少なくとも200%以上の手元資金は持っておきたいところです。
2 運転資金要調達高をチェックする
では、もう一歩進めて、必要な売買活動のための運転資金要調達高をチェックすることが
できないものなのでしょうか。 それは次の見方でできます。
(売買活動)運転資金要調達高 = 売上資産 - 買入負債
=(受取手形+売掛金+棚卸資産)-(支払手形+買掛金)
この金額が自社においての「売買活動のために必要な運転資金要調達高」となります。
これをもとに、さきほどの考え方で運転資金要調達高支払能力がチェックできます。
運転資金要調達高支払能力 = 手元資金 ÷ 運転資金要調達高
これが100%以上あれば、まず安心ですが、安定した売買活動を行うためには、
やはり200%以上の手元資金は持っておきたいところです。
3 運転資金要調達高を予測する
では、さらにもう一歩進めて、必要な売買活動のための運転資金要調達高を予測する
ことができないものなのでしょうか。 それも次の見方で可能です。
(売買活動)運転資金要調達高予測 = 運転資金要調達高 ÷ 年商
この比率が、売上に必要な「運転資金要調達率」となります。
つまり、百分比率ですから、このパーセントが自社においての100円売り上げを増やす
ために必要な運転資金となります。
例えば、この比率が20%であった場合、いまのモデルでは100万円売上が増えると、
20万円の運転資金が必要となります。
できれば、この「運転資金要調達率」は一般的には10%台には押さえたいところですが、
粗利の高い事業・売上単価の高い事業ほど高くなりますので、そのような事業をしている
場合は多くの手元資金が必要となります。
このように、買入債務について読めるようになりますと、運転資金に関する資金繰りは
問題解決の方向へ動き出します。なぜなら、私たちは現状認識さえできれば、それを避ける
ような行動を取るように出来ているからです。
また、それぞれの判断基準は、一般的な考え方としてはご紹介したとおりですが、
実際における判断基準は、同じ業種業態でもそれぞれの状況が違いますので、
各社の経験と状況で判断することになります。
いわゆるそれが「経営者のマネジメント力」であり、「経営技術」といわれるものです。
このように月次試算表を日々の経営に活かすことによって、黒字経営と強い会社つくりが
可能となることが徐々におわかりいただけるようになって来たかと思います。
掲載日:2017年9月20日 |カテゴリー:会計識字率, 経営技術
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