第4回 純資産の見方
1 純資産とは何か
『純資産』の項目には、手元の試算表や決算書を見られるといろいろありますが、
私たちの事業にとって、重要な項目は『資本金』と『繰越利益剰余金』だけです。
◆『資本金』とは、会社を設立したときの出資金です。
◆『繰越利益剰余金』とは、事業を始めて貯めて来た『当期純利益』の累積です。
この資本金と繰越利益剰余金などの合計は必ず「資産ー負債」と一致します。
ですから、純粋な資産という意味で『純資産』と呼んでいます。
また、資本金も繰越利益剰余金も、自社自身で調達した資金でもあるので『自己資本』とも
いいます。
では、これら純資産をどう見て行けばよいのでしょうか? 一緒に考えていきましょう。
2 純資産は「これまでの事業活動の成果」
いろいろな言い方があるのでしょうが、
一言で言えば「純資産はこれまでの事業活動の成果である」と言えます。
ですから「自社のこれまでの事業成果はどうだったのか?」という答えはここにあります。
◆純資産が資本金より減っていれば、うまく行っていないということです。
したがって、改善が必要です。
◆純資産が資本金より増えていれば、ここまでは順調であったということです。
しかし、さらなる改善策があったのではなかったのかと、振り返ることが大切です。
いずれにせよ、最低でも1年に1回程度は、この純資産を確認したいものです。
できるならば、中間決算期と決算期の年2回ぐらいは、あらためて見てほしいと思います。
(1)「純資産は増えていなければならない」が常識
事業がうまく行っていれば、かならず繰越利益剰余金が貯えられて、純資産は大きくなって
いるはずです。その大きさが、事業の順調さを物語ります。
決して、「総資産が大きくなっている」ことが事業の順調さを示しているのではありません
ので、注意が必要です。
確かに、事業が大きくなっていることは総資産の額が示しますが、違う角度から見えれば、
それは「リスクの大きさ」とも言えます。
また売上高の大きさは取引量の大きさを示していますが、それ以外何物でもありません。
◆人間で例えれば総資産は体の大きさを示し、売上高は摂取している食事量の多さを示して
いるに過ぎません。
このことは創業当時と比べれば、たくさん食べられるようになったし、おかげで体も大きく
成長したということは言えますが、体内の健康状態はわかりません。
◆純資産は「体内の健康さを表す」と言ってよいかもわかりません。
ですから、純資産が増えていない・減っているということは、不健康状況へ向かっている
ことを示してします。
◆現代の中小企業は確かに総じて純資産の割合が低いのですが、それは決して「常識」でも
「当たり前」ではありません。 まずその思い込みを払拭しましょう。
(2)純資産の意味と見方
さて、その純資産をどう見ればよいのでしょうか?
一般的には「自己資本利益率」いうものがありますが、利益と自己資本を比べて何か得られ
るものがありますでしょうか?
以前と比べて、増えた・減ったはわかりますが、「それで?」という感じです。
ここではもう少し具体的な見方を考えてみたいと思います。
①自社の成長度合を見る「自己資本成長率=自己資本÷資本金」
まず一つは、創業以来どの程度、自社が成長して来たのか、確認しましょう。
事業をやる目的は、「社会貢献を通じて、当初資本を増やすこと」とも表現できます。
それを見る指標が『自己資本成長率』です。
自分で商売を始めた以上、元手を増やして行きたいものです。
目指す成長のスピードはそれぞれのペースでいいと思いますが、順調な企業は4~5年で
倍々程度にはしています。
②自己資本の状況を確認する「自己資本現預金割合=現預金÷自己資本」
安定した経営を続けていくには、貯めた自己資本のいくらかは手元資金として持ちたいもの
です。
◆いくら繰越利益剰余金が計算上あっても、その多くが設備投資に回っているという状況で
あれば、それは適切な経営状況ではありません。
そこで、手元資金(現預金)と自己資本を比べることで、その状況が確認できます。
安定した企業は少なくとも自己資本の70~80%程度は手元資金で保有しています。
◆いまは、また今後も、経営環境は先行き不透明な時代が続きますので、特に体力があまり
ない中小企業においては自己資本をなるべく手元資金で持つ経営が重要です。
③借入の状況を自己資本で管理する「借入金対自己資本倍率=短・長期借入金÷自己資本」
借入金はさまざまな角度からチェックすることが大切です。
なぜなら、企業が事業を継続できなくなる現実的な一番の理由は、借入金返済できなくなる
ことによって引き起こされるからです。
したがって、借入金を平均月商と比べることも、債務償還年数をみることも大事なのですが
それに加えて、自己資本と比べてマネジメントすることも、実務的に大事なことです。
そこで、この「借入金対自己資本倍率」です。
経営分析ではギアリング比率とも呼ばれていますが、この見方には二つの観点があります。
ひとつはオーソドックスな通常の見方で、なるべく適正度をマネジメントとしようとする
姿勢です。その場合「50%以下に抑える」ということが一つの判断基準となります。
多くの優良企業は、そのほとんどが20%前後に抑えたマネジメントをしています。
もうひとつの見方は積極経営・攻めの経営の場合です。
この場合は少ない自己資本で「いかに多くの資金を引き出すか」ということがテーマになり
ますので、この借入金対自己資本倍率も高くなります。
つまり、ハイリスク・ハイリターン経営です。しかし、これは特別な例です。
今回は『純資産』の意味と見方を勉強しました。
その要点は
1.純資産とは、資本金と繰越利益剰余金である。
2.純資産は増えて行かないといけないものである。
3.純資産の見方には3つある。
(1)自己資本成長率
(2)自己資本現預金割合
(3)借入金対自己資本倍率(ギアリング比率) 以上です。
次回は資産の意味と見方をご紹介します。 おたのしみに!
(次回へつづく)
掲載日:2016年11月9日 |カテゴリー:会計識字率, 経営技術
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