第3回 総資本の見方(2)
(前回「2 負債の見方」の続きとなります…)
(2)固定負債の意味と見方
『固定負債』とは、固定的な負債という意味です。
したがって、流動負債を除く、原則1年以上に渡って返済する負債を指します。
原則1年以上に渡って返済する負債とは、設備投資や土地・建物などを購入するための
『借入金』や支払期限が明確でない『長期未払金』などです。
固定的な使途である固定資産と比べることが見方のポイントです。
■固定的な使途『固定資産』と比べる
経営の固定的な使途とは『固定資産』でしたね。
固定資産は基本的に金額が大きく、また長く事業のために使いますから、
その投入資金が固定的な資本であるかどうかを確認することは重要なことです。
①その一番大局的な見方「固定比率=固定資産÷自己資本」
この固定比率が100%以下であれば、分母の固定資産より資金の出どころ自己資本の方が
大きいということですから、固定資産はすべて自己資本で購入していることになります。
ですから、固定資産への投資活動としては「安全性が高い」と言えます。
しかしなかなか固定資産の購入資金を自己資金だけで賄えるということは現実的にはあまり
ありませんから、補足的な資金調達状況を確認することが必要です。
現実的には、「固定比率は高くとも200%以下」に押さえたいところです。
つまり、会社の固定資産の半分程度は自己資金で購入するようにしたいということです。
②補足的な見方「固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)」
さきほど「補足的な資金調達状況を確認することが必要」と言いましたが、
その確認がこの固定長期適合率という見方です。
名前はチョッといかめしいですが、内容はいたって単純です。
「固定資産は自社の資金と長期返済の銀行借入金で賄う!」ということです。
固定資産は先ほども言ったとおり、長く使うモノであり、またそれだけではリターンも
産まないモノです。
ですからなるべく自己資金を多くして、不足する分だけを、長く返済できて、金利も低い
長期借入金で賄うということが、あるべき資金調達です。
身近な例で説明すれば、車は自己資金と自動車ローンで購入すべきであり(それもなるべく
自動車ローンは抑える)、決してそれだけでは足りないからカードローンを使うということ
はダメですよ、ということです。
このような例えを言えば「当たり前!」と思われるのでしょうが、
多くの中小企業はこの固定長期適合率が100%を超えているのが実情です。
100%を超えているということは自己資本+固定負債の額より固定資産の方が多いという
ことですから、固定資産購入に際して流動負債も資金源にしてしまっているいうことです。
土地を多く持っている、自社建物を持っているなど企業に、比較的多く、この状態が見られ
ます。この指標は必ず100%以下が大原則、できれば70~80%以下にはマネジメント
したいところです。
■借入金をチェックする
最後に、一部、流動負債も含まれますが、「借入金」の見方です。
いま多くの中小企業は「借入金まみれ」と言われています。
借入金は流動負債と固定負債に記載されていますが、合計で状況判断します。
①借入金の量を判断する見方
「借入金対月商倍率=短期・長期借入金合計÷平均月商」
平均月商とは、家計でいえば「平均給与」にあたります。
したがってこの借入金対月商倍率とは、何カ月分の給与にあたる借入金があるのか?という
ことです。 そして理想的なモデルで説明をしますと次のようになります・・・
1)理想的な企業の売上高経常利益率は10%と言われいますので、
その最大の借入金返済金額は税金を除くと「売上高の5%」と言われています。
2)また、短長期の借入金を合わせた平均の借入金返済期間は「5年」と言われています。
3)すると、毎月の借入金返済枠は「売上高の5%」、返済期間は「5年(60ヶ月)」と
なりますから、借入金は月次売上高の「300%」となります。
つまり、「平均月商の3ヶ月分」です。
4)では、現実的に売上高経常利益率が10%という企業ってあるでしょうか?
答えはほとんど「ノー」です。
ということは、「短長期の借入金総額はMAXでも月商の3ヶ月分に抑える」という
考え方が導き出されます。
いま多くの中小企業は借入金が3カ月以上ありますので、そのことが「借入まみれ」と
言われている所以です。 みなさまの企業はどうですか?
②借入金の返済力をみる見方
「債務償還年数=短期・長期借入金合計÷(年間減価償却費+年間営業利益)」
借入金利息はPLの営業外費用で支払ってますが、借入金返済はPLからではありません。
借入金の返済はBSで支払います。
このことはたいへん大事なことですので、よく認識しておいてください。
詳しく説明すれば、経常利益から税金を納付し、残った『当期純利益』がBSの『繰越利益
剰余金』へ行き、そこから借入金返済をすることになります。
ただそれだと返済力の見方がややこしくなりますので、簡便的にエイヤッ!と『営業利益』
を借入金返済原資とみなします。
さらになるべく返済能力があるように評価できるようにするために(?)、実際には現預金
支出を伴わないという理屈で『減価償却費』を加えて返済原資と見ることになっています。
しかしこれは考え方の問題だけですから、実務上、『営業利益』だけを返済原資として見て
判断しても、何ら問題はありません。
ただその結果は、5年以内の借入金返済期間とさせたいものです。
5年間という根拠は、上記の「平均返借入金済期間は5年間」ということです。
ですから、仮に年間営業利益が300万円程度の会社であれば、1500万円までの借入金
で抑えるということです。
ちなみに金融機関では「債務償還年数は最大10年以内」という基準を持っていると言われ
ますが、その根拠は10年先にその企業が存続しているのか、していないのか、10年先の
ことはわからないからだと言われています。
③借入金と預金残高のバランスをみる見方
「預金対借入金比率=預金合計÷短期・長期借入金合計」
融資が下りれば、その資金は預金口座に入ります。
そしてその資金を目的の設備投資や運転資金に使い、翌月から借入返済をその預金口座から
していくわけです。
資金事情が苦しい中で融資を受け、そして融資目的で使えば、一挙に預金残高が減るわけで
すから、この頃が一番大変厳しい状況となります。
できれば、返済する気持ちに少しでも”ゆとり”が欲しいところです。
そのためには、借入金と預金のバランスを常にマネジメントする必要があります。
それが、預金対借入金比率です。
これはなかなか難しい判断ですが、数値的に言えば常に最低でも借入金残高の10%程度は
預金残高として持ちたいものです。
借入金の平均返済期間は60ヶ月でしたから、1回当たりの返済額は元金の約1.7%と
なります。したがって、預金残高が10%ということは、5~6回分程度の返済残高という
ことになります。
ただし、これに通常の運転資金に備えなければなりませんから、できれば借入金残高の
30%程度以上は預金残高として持ちたいものです。
ということは、融資を受ける場合に、できれば必要資金+αの少し余裕をもった融資を受け
ることも大切です。
さて、今回は流動負債に続き、『固定負債』の意味と見方を勉強しました。
その要点は
1.固定負債とは、経営の設備投資的な資本である。
2.固定負債の見方には2つある。
(1)固定比率
(2)固定長期適合率
3.借入金の見方には3つある。
(3)借入金対月商倍率
(4)債務償還年数
(5)預金対借入金比率 以上です。
次回は純資産、自己資本の意味と見方(純資産に見方なんてあるの?…あるんですよ)を
ご紹介します。 おたのしみに!
(次回へつづく)
掲載日:2016年11月2日 |カテゴリー:会計識字率, 経営技術
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